着物book日記

おキモノ好きが着物関係の本を問わずがたり、というblog。

着物の本(45) 玉緒の「着物」の喜び

歌舞伎シリーズです。

 

玉緒の「着物」の喜び

玉緒の「着物」の喜び

中村玉緒

光文社 2000/4 

 

単行本で定価1200円です。ベージュの地に黒でゴチック体を押し出した、シンプルきわまりない表紙ですね…ブックデザインは佐藤晃一デザイン室。背と裏表紙の間に若緑色の線が入ります。アマゾン書影に無いですが、下半分を巻いている帯は赤茶色。歌舞伎の配色をミニマルに表しているのかもしれないです。

中も白黒の著者近影が一枚あるきり、他にイラストも写真も無い非常にシンプルな作りになっています。

 

2000年というと、玉緒さん61歳。70年代、80年代とスキャンダルがあった後、90年代に明石家さんまのいじりをきっかけにキャラがブレイク。1999年にはCM女王にもなり、2000年は「好きなタレントランキング」で8位と最も人気があったころで、着物の本というより、当時流行のタレント本として出された本かもしれません。

そんな玉緒さんの略歴が分かる動画、こちら。


中村玉緒ヒストリー 勝新伝説と借金十数億と恩人明石家さんま - YouTube

 

さて、この本、お喋りをエッセイ風に文章に起こしたような内容なのですが、波乱万丈、天真爛漫な方だけあって着物以外の面白い話がいっぱいです。初舞台は女の子は出られないはずの歌舞伎の舞台で禿(かむろ)役だった、とか、当時の皇太子様と美智子様のご成婚時に市川雷蔵と二人で「鶴亀」を踊ったとか…もちろんご主人の勝新太郎も何度も出てきますし、からくりテレビの話もあったり。特に結婚前までの女優の頃の話はとても興味深いです。なお、有吉玉青さんの名前が誕生時にたまたま同じ病院に入院していた中村玉緒からとって名付けられている、というのにはびっくりしました。

とはいえもちろん、着物の本ですので、本の半分以上は着物の話です。生家が歌舞伎役者の家、さらにたくさんの映画に着物で出た経験もある女優さんですので、プロフェッショナルという以前に人生に自然に着物が取り込まれている感じ。自由でありながら他人に優しく、色気にも気を配り、それでいて正当派のこだわりも感じるという、これが生粋の梨園のお嬢様なんだという玉緒ワールドが展開されます。また、90年代半ばからは「玉緒のきもの」というブランド名で着物のデザインをし、各地の展示会を回っている、とありました。こちらですね。

 

中村玉緒のきもの/株式会社瑞穂

 

展示会のお高い着物は敬遠したいですが、中村玉緒にお着物を見立ててもらうのは面白い経験かも。他にも自分がはじめてデザインした「シャボン玉」柄の着物の話、とか、エランドール特別功労賞を貰った時に着た嫁入りの時の赤い着物、とか、いろいろな思い入れのある着物について、わりとディティールも含めて語られますが、やはり百聞は一見にしかず、写真が無いとつまらないなぁ、と思います。

着物用語だけでなく、お店の名前(住所つき)、人物、映画、はては「マロニーちゃん」とは何の事か、など、なんにでも注釈がついているのがありがたいです。出来たら写真付きで改訂版を作ってほしいです!

 

着物の本(44) あしたも着物日和

コミックエッセイ本です。

あしたも着物日和 (徳間文庫)

あしたも着物日和 (徳間文庫)

近藤ようこ 2010/4

 

こちらは文庫版で、オリジナルは2006年に出ています。黄色の小紋を着た女性の手の平にのっているメガネをかけた女性が主人公の近藤ようこ自身、という表紙。

近藤ようこという漫画家さん、あまり存じ上げないのですが、キャリアも長く、和物を得意にしている作家です。いまWikipediaを見たら、高橋留美子と同じ高校の同級生なんですね。へぇー。そんな著者の初めてのコミックエッセイだそうです。この本には写真はありませんが、ご本人の着姿は、この間ご紹介したばかりの着物の時間 2 (マガジンハウスムック) に紹介されています。

1957年生まれですので、本が出た頃は40歳後半ということになります。この年代の方が出されてる本って、いままであまりご紹介したことがなかった気がします。 が、着物のキャリアは長く、1986年、29歳のころから着物に興味を持ち出し、そこからの20年あまりの着物生活の紆余曲折が漫画で描かれます。プレタからはじめてのお誂え、清水の舞台から飛び降りるようなお買い物、悉皆屋さんに出会う話、仕立て直し、箪笥を買う話など。マンガ家とはいえ、お財布感覚はとても庶民的で地に足がついており、親近感が持てる内容。でも、その時々の着物の流行りすたりや、着物雑誌の撮影の裏側など、やはりマンガ家ならでの観察眼が光る描写が沢山あります。シンプルな絵柄でとても読みやすいですが、最後の12ヶ月のコーディネート紹介くらいは、カラーイラストか写真にしてほしかったなぁ〜。

 

本の中で紹介される、著者が色々な人の声を集めて作ったこの本もいつかご紹介したいと思います。

私たちの着物術

 

また、続編にあたると思われるこちらの本も読んでみたいですね〜。

着物いろはがるた

 

 

 

着物の本(43) 着物の時間 2 (マガジンハウスムック)

ふたたび、「永久保存版」と銘打たれた本です。

着物の時間 2 (マガジンハウスムック)

着物の時間 2 (マガジンハウスムック)

マガジンハウス 2008年11月

 

以前ご紹介した着物の時間 1から5年半後に発売されたムックです。2003年から2008年の間は、高級化しすぎて手がとどかなくなった着物を、リサイクルや普段きもので見直そう、というようなブームがひとしきりあって、落ち着いたころだったのではないかと思いますが、どうでしょうか。

前回の81人から79人に、2人だけ減っていますが、1冊目と同様、バリエーションゆたかに沢山の有名人の着姿が披露されています。織りの着物、染めの着物、夏着物、という風に分類して掲載しているのも、年代の幅が広いのも同じですね。ただし、少し若い人が多くなったように感じます。また、時代が最近に近くなった分、見知っている人も多くなっています。例えば、今もきもの雑誌でよく見かける、節子・クロソフスカ・ド・ローラさん、三田寛子さん、大久保信子さんなど。一冊目では、粋に現代感覚な着こなしを見せてくれた人に研ナオコさんがいましたが、こちらの本だとその枠は野宮真貴さんになるでしょうか。

一冊目と違い、かならず一人2ページが割り当てられる構成になったので、皆が語っている言葉も増えたのですが、「母」が出てくる回数が多いのに気づきました。全部数えてはいないですが、確実に半分以上の方は言及されていると思います。特に編集後記でも触れられている松島トモコさんの着物は、嫁入り前のお母様のために作られ、その後母と共に激動の戦禍と、火事とをくぐり抜けてそこにある、という奇跡的な着物だそう。そういった物語があると、より味わい深く、読んで見て楽しめる内容になりますね。

着物の本(42) 私のきもの生活

年内までに50冊! 行こうと思います。

私のきもの生活

私のきもの生活

藤間紀子 文化出版局  2003/12

 

梨園の女房シリーズです。

11年前に出た本になりますね。以前ご紹介した着物の本(9) 堀越希実子の着物ごよみ  より少し前の出版になります。いまもある「ミセス」という雑誌の姉妹誌、「ミマン」に1999年~2001年に連載していた内容をベースに構成されているようです。「ミマン」はこの本が出るころに廃刊となってしまったようですが、50-60代向けの婦人雑誌だったようです。藤間紀子さんは1945年生まれなので、55歳前後の着姿となり、層にあっていますね。

さてこのかた、ご実家は開業医とのことで、一般のお嬢様として育ったようですが、若いころはそれはお美しく、結婚された頃は数々の雑誌の表紙にもなっていたようです。ご主人は、歌舞伎のみならずミュージカル等で有名な松本幸四郎。お子さんはやはり歌舞伎役者の市川染五郎、女優の松たか子と、もう一人松本紀保というやはり女優の方の3人。その全員を育て、裏方として支えるのはとても大変なことだったかと思います。写真でも常に微笑みを絶やさないお顔が逆にご苦労を感じさせますね…。

 

さて、本ですが、まずご自分の四季の着物やコート等の紹介、家に伝わる着物、着物まわりで愛用しているお店の紹介、自分の着方、の4部構成です。

はじめの2つのパートが多くの部分を占め、たくさんの着物が紹介されています。マネキンや置いた状態でのコーディネートだけ紹介するような本も多い中で、ほぼ全部着た状態で紹介しているのが、この本の一つのこだわりでしょうか。留袖や訪問着といった華やかなものだけでなく、ごく落ち着いた紬、普段着のような小紋、色々な着物が紹介されています。色目からすると、パーソナルシーズンカラーはイエローベースのオータムというところでしょうか。50代ということもあり、全体的には地味ですが、中には志ま亀のハッキリした色の市松小紋を着こなしていたり、義母(初代中村吉右衛門の娘)から受け継いだ紫色の色留袖に施した華やかな刺繍など、目を奪われるようなものもいくつかあります。この点、堀越希実子の本よりは楽しいです。また、着物を受け継いだ娘さんお二人もちょこちょこと登場してくるのもアクセントとなっており、見ていて楽しいですね。また、長女の紀保さんが曽祖母から貰ったという市松人形のおきものセットもかなりのページを割いて紹介されており、長く続く芸能一家ときもののかかわりを知る事ができます。

それにしても、とてもたくさんのお写真なのに、どれも同じようにキレイに着付けているのには驚きます。半衿は白で襟元は同じ角度できっちりあわせ、また帯揚げは見せないでほぼしまう、と着方も統一されています。とはいえ、体格がよいこともありますが、全体的にゆったりとして、きつきつしい感じはしません。さすがきもののプロ!その着姿の秘密が種明かしされるのが4部の「私の着方」パート。なんと、自分の寸法を標準寸法と比較しながら紹介しています。やっぱりいつも自分の納得いくように着るのには、寸法は大事なんですね。これもまた、着物の色柄とは関係ない、着物に対するこだわりの一つですね。これは非常に参考になりました。

 

着物の本(41) 自分でできるきもののお手入れ&お直し

和裁の本2冊目です。

自分でできるきもののお手入れ&お直し ― 和裁知識ゼロでも、ぶきっちょさんでもできます!

 

自分でできるきもののお手入れ&お直し ― 和裁知識ゼロでも、ぶきっちょさんでもできます!

世界文化社 2010/6

 

これも「きものSalon」系列の本になります。副題の「和裁知識ゼロでも、ぶきっちょさんでもできます! 」とはなんて魅力的な言葉でしょう。ただし、私の持っている3刷の実物にはこの言葉は実際載っていません。なんででしょうね…(笑)

さて、まず、メイン特集である寸法のお直しについては、運針、三つ折りぐけと本ぐけ、キセという和裁ならではの技術について説明があった後、下記5種類のお直しについて、それぞれ2~4ページを割いて丁寧な説明が載っています。

 

・袷の裄直し(延ばす)…袖を取って身頃、袖幅を延ばし、再び袖付けをするまで

・袖無双の長襦袢の裄直し(延ばす)…上記と流れは同様。袖下の振りの直し方と、身頃は一枚なのでくけになる状態が違うところ。

・単衣の裄直し(延ばす)…同様ですが、上記2つにくらべると簡単そうに見えます。

・袷の袖丈直し(延ばす)…これは需要が多い気がしますが、袖丈がどんな身長でも統一されている現在、アンティークの長い振りを詰める需要のほうがさらに多そうな気がしますので、そちらを載せて欲しかったですね。

・雨ゴートの身丈直し(延ばす)…堅衿のカーブの出し方が独特です。これもお母様のコートを譲られた場合などで需要が多いのでしょうか?

 

少しだけ和裁をかじった身からすると、いくら丁寧に説明してあるといえども、待ち針やぞべ糸でのしつけはまったく紹介していない=完全にプロ向きな手順であるとか、まず家には無いと思われるコテを使うのが前提になっているなど、この本の説明だけで同じ事が出来る人は相当恵まれた人なのではないか、という印象です。

和裁パートが終わると、日本刺繍のアップリケやチロリアンテープの縫い付けでのリメイクの紹介。日本刺繍は、基本的な技がなんだか簡単そうに紹介してありますが、この説明だけできれいに仕上げるのは難しそう。その次は草木染めやダイロンで半衿帯揚げ、風呂敷といった小布を染めるというお直しが続きます。

洗う系のお手入れについては、単衣の解き洗いに挑戦する体験記事が載っているのみです。最後のほうは、付け帯、草履キーパー、和装下着、絹のパジャマ、割烹着など、ミシンで出来る小物の作り方が一杯載っています。普段に着物を着る人には嬉しい内容ですね。ミシンが無くても、手縫いで出来そうなごく簡単な小物もいくつかあります。

 

80ページというと少なく思いますが、細かくページを割って手順の説明、型紙などを盛り込んでいる所が多かったり、着物のハンドクラフト方面のブロガーのサイト紹介ページやお店の紹介等、お値段に見合う充実した内容になっているかと思います。ただし、全体的にはやはり、「きものSalon」ならではの「読んでうっとり」的側面が強い本かな、とは思いました。

 

着物の本(40) 言わぬが花―萬屋に嫁ぎ、獅童を育てて

どんどん行きます。

 

言わぬが花―萬屋に嫁ぎ、獅童を育てて

 

言わぬが花―萬屋に嫁ぎ、獅童を育てて

小川 陽子 2006/3 主婦と生活社

 

こちらはきもののプロである梨園の妻もの分類の本になるかと思います。といっても、ご主人は歌舞伎の一家に生まれながら歌舞伎界を出てしまいました。このため後ろ盾を失った息子さんの二代目中村獅童を、この小川陽子さんが、影になり日向になり下支えした話は有名です。ですので、本当は、梨園の妻ものではなく梨園の母もの、と言ったところでしょうか。先日お亡くなりになった際には号泣する中村獅童の姿がワイドショーで繰り返し放映されていましたね。

さて、本の内容としては、その中村獅童の話を中心に歌舞伎のことが半分、着物に関してのことが3割、残りはおつきあいのヒントという構成です。歌舞伎等の舞台写真もかなりのボリュームなのですが、勿論ご自身の写真、手持ちの着物、着る時のコツ、始末や収納の工夫といった着物に関する写真も惜しみなく掲載されており、見応えがあります。66歳の時の出版になりますが、この本のために撮影したと思しきご本人の堂に入った着姿はとても素敵です。また、文章も、歌舞伎界の有名な母「小川ひな」に長く仕え、日本刺繍をたしなみ、お付き合いに方々まで気を配り、色々な苦労をされてもカラッと明るい気性で、ユーモアのある女性であったことがしのばれる内容です。

 

すでに中村獅童と離婚した竹内結子がまだ妻だった頃の本のため、彼女に見立てた着物の紹介があります。目白の「うちだのきもの」での誂えたという、この3つの着物がとても素敵なので、つたない文章で恐縮ですが、最後にご紹介しておきます。

・淡いピンクグレイの梨地の付け下げ。京友禅で描かれた花輪がしだれ状に配されて、付け下げといえど華やか感もあり、まさに出ず入らずの着物。黒地に家紋の「桐と蝶」を織り出した袋帯を合わせてあります。

・やはり淡い紫と、白地が段がわりになった紋綸子の着物。おそらく小紋地だと思いますが、白地部分に地紋起こしで花をいくつかカラフルに刺繍することで付け下げ扱いになっている凝った着物。こちらの帯は帯は箔紙を織り込んだ四季草花の文様で、こんじき色。

・若草色の一つ紋付き色無地。どちらの帯も合わせられるもの。

写真には「若い方ならこんな3組があればどんな席にもOKよ」のキャプションがついています。きっともう二度と日の目を見ない着物、見れるのはきっとこの本だけです。

 

着物の本(39) もめん随筆

大分昔の本です。

 

もめん随筆 (中公文庫)

もめん随筆 (中公文庫)

森田たま

 

上でご紹介しているアマゾンリンクは、今、簡単に手に入る2008年刊の文庫版ですが、オリジナルは1936年に中央公論社から出たものです。第二次世界大戦前の随筆になり、著者の森田たまは1894年生まれの明治の女。森田たまは、元々文学を志して北海道から上京しながら、一旦は結婚して関西に落ち着き、その後、38歳の時に「着物・好色」というこの本に収録されている名随筆により再デビュー。再上京し、その後沢山の本を書く傍ら、国会議員をつとめるなどの活躍をした方です。私はこの本を読むまで存じ上げませんでしたが、戦前〜戦後にかけてはかなり有名な存在の方だったのではないでしょうか。

着物に絞った本ではなく、身の周りの色々を書いたエッセイ集ではありますが、きものが日常着だったころの随筆ですから、ファッションの事となると多くが着物の話になります。このブログは着物の本の紹介なので、着物中心のエッセイをピックアップしてみると、下記の7編でしょうか。

 

「あひ状」…夏に着ると色っぽいきものとは?

「東京の涼」…百貨店の番頭さんについて

「花の色」…夢二の「みなとや」、半襟について

「桃花扇」…安い紡績に間違えられた結城縮のきもの

「絹もすりん」…東京の浴衣、札幌の思い出

「木綿のきもの」…実は木綿のきものこそ贅沢

「着物・好色」…秋。女がきものに執着するのは何故か

 

最近のエッセイはどちらかというとテーマがあって、それにオチが着くようになっていると思うのですが、この本のそれは、きらきらとしてやさしい表現が読みやすく、はっとする着眼点が面白いものの、万華鏡のように話が次々と切り替わっていき、読み終わってみると特にオチも着かず、何が中心テーマだったのかよくわからない、でも読後感は悪くない、というものが多いです。

が、そうしたエッセイの中で、「着物・好色」が出色と思うのは、はじめに娘の着物を取り出して裁縫を始めるシーンから始まり、話がいくつか切り替りながらどんどん想像力が広がっていき、はっと我に返って最後に元のシーンに戻って終わる、という所で、おそらくこうしたまとめ方が賞賛されたのでしょうし、現在のエッセイのお作法の土台になったのかなぁ、と思います。また、ビジュアル的な表現も素晴らしく、このままCGを加えた映画か、アニメーションにしたら素敵なんじゃないか、という思わせる内容です。

この文庫版に収録されている市川慎子さんによる解説も、とても良い文章です。