着物の本(47) きものがたり(宮尾登美子)
47冊目。表紙の萩の小紋の表紙、自筆の題名。
著者は亡くなられたばかりです。ちょうど年明けすぐにこの本を取り寄せていたので、訃報を知った時には驚きました。20世紀を代表する女流作家の一人です。すでに以前に小説の錦 (中公文庫) をご紹介しましたが、こちらはエッセイ。
1926年生まれで、1998年の家庭画報の連載を元にしている本ですので、著者70代のころとなります。
12の月に分けて、文章と写真で、きものに関するエッセイと一緒に手持ちの着物が紹介されています。体裁としては澤地久枝のきもの箪笥や、群ようこのきものが欲しい! に似ています。写真で紹介されている着物の数がとても多く、100点あまり。それに加えて帯や羽織、コートも大量にあるという状態。これがお持ちの全てではないのでしょうから、普通にびっくりする量ですね・・・戦前の着物は戦中や敗戦後に失ってしまい、その後、苦労を経て作家としてデビューし華やかなご活躍をされている間に手に入れた着物が中心のようです。ですから当然多くを占めるのは訪問着や付け下げですが、それらは衣桁にかけた状態で撮影。それよりは地味な小紋や紬も上前全てと片袖を見せた状態となっており、いずれも、どんな着物なのか非常にわかりやすくなっています。それぞれ、帯や小物とは合わせたコーディネートをしていないため、単品に集中してうっとりできます。羽織やコート、帯の紹介の章もありますが、やはり中心は「きもの」、ということですね。
ご本人の着姿も、それほど多くはないですが紹介されています。70代でのお着物姿は、貫禄というよりも、来歴の深い一つの美術品のようなしっとりとした美しさを感じます。
さて、写真にある着物の話はどのような来歴か、だけでサラリと流されている事が多いです。文章で主に描き出されるのは、昔に失った着物や、人に譲ってしまって手元になく、写真では紹介されない着物の話ばかり。そっちを写真で見たくなります(笑)。ご本人も書かれている通り、それは郷愁ゆえでもあるのでしょう。が、それよりも、沢山の実際の人々を元にした半フィクションを著した著者の、過去へ飛ぶ力は人並みならぬものだという感想を持ちました。また、きものとは女のいのちであり、人との関わりであるということもひしひしと感じます。
ご自身の著書に関わる話もちょっとずつ出てくるので、もしまだ宮尾登美子の小説を読んだことが無い方なら、この本をまず読んだ後に、興味の方向が合うものを読んでみるのもオススメです。
著者の半自伝作品。子供の頃の話はこちら「櫂」から。続く「春燈 」までが花街時代の話で、母との思い出が沢山詰まっています。牡丹色のコートの話は「朱夏」に、引き揚げ後、機で着物を作ってもらう話は「仁淀川」で出て来たと思います。
歌舞伎界の話です。この連載の取材のために、気張って選んで着たきものが着姿で紹介されています。
女流日本画家・上村松園の話。彼女の絵の中の人物が着ている絞りの着物について、この本で触れられていました。
著書には歴史物も多いです。この幕末ものは、江戸のお姫様ならではの贅沢なお着物描写がたっぷり。
これは未読ですが、もう一冊のきものエッセイ。アマゾンレビューで「きものがたり」とのあわせ読みをオススメされてたのでいつか読もうと思います。