着物book日記

おキモノ好きが着物関係の本を問わずがたり、というblog。

着物の本の紹介(6) 錦 (中公文庫)

こんばんは!

 

6冊目。こんどは小説です。

錦 (中公文庫)

 

錦 (中公文庫)

宮尾登美子著、中央公論新社より2008/6 出版 

 

小説といえども完全なフィクションではなく、実在の人物「龍村平蔵」を主人公にした一代記です。文中は「菱村吉蔵」と微妙に名前を変えてありますが、すぐにピンとくる方も多いでしょう。昨年創業120周年で展覧会をしていた龍村美術織物の創業者です。

呉服屋の帯の担当の丁稚から、工場をたちあげ西陣の機元へと転身して成功を納め、その後は法隆寺の古裂の再現、宮家に捧げるタピスリーの制作に情熱を燃やし、常に走り続けるアートな生き様の男、それが菱村吉蔵=龍村平蔵という主人公。それを支えるどっしりした正妻、かわゆくもはかない二号さん、影に日向に働く女丁稚、3人の女性たちの織りなす生き様を華麗な織物の模様の描き出しています。

「たつむらの帯」はお着物好きには有名で、初代のものとなるともはや博物館もの扱いだったりもするのですが、その影にこんなアクもシンも強い男と、彼をめぐる女達の壮絶なドラマがあったとは。読み終わって改めて龍村美術織物のサイトや西陣の帯達を見ると、ただ単に「豪華」としか思わなかった帯たちの影の沢山の人の創意工夫や苦労を感じられるように思います。

纐纈(こうけち)織、綴(つづれ)織、など色々と知っている織り方の名前も沢山出て来て、帯の勉強になりますし、ちょっと調べると徳光 博正(今泉 雄作)、久 靫彦(菅 楯彦)など美術史の人々もあれこれと顔を出してくるのに気がつきます。こういう本こそ豪華な挿絵や注釈入りで読みたいものなのですが、難しいでしょうか。さらにムリかもしれないけど、映画化とかで目を楽しませてほしいものです。後世に期待!