着物book日記

おキモノ好きが着物関係の本を問わずがたり、というblog。

着物の本の紹介(4) 幸田 文 きもの帖

4冊目。文字だけの本は初めての紹介です。

幸田文 きもの帖

 

幸田文 きもの帖

2009年、平凡社発行

1950年代~1970年代の間に書かれた幸田文のきものに関する随筆を娘さんの青木玉が選り抜いて編んだ一冊。一編一編は短めですが、40編近く収められているのでとても読み応えがあります。岩波の全集を定本としていますが平凡社から。著者の写真は一葉のみ、最後に青木玉の母についての後書きもおさめられています。

 

いくつか私の好きな部分を抜き書き。

 

女の和服はしゃちほこ張りさえしなければそれでいいのです。雪だと思って着ればいいのです。

冒頭の随筆から、ステキなアドバイスにぐっと来ますね。雪だと思って、ってどういうイメージなのか想像が膨らむフレーズです。

 

あたしは町で生まれて、町で暮らしてきた女だから、一生、町の派手やかさは捨てまいと思う

江戸っ子の女性の小気味よくぽんぽんとしたセリフの面白さ。後ろのほうで出てくる「齢」の百合子さんもそうですが、女性に対する観察眼の細やかなこと。

 

近々四五十年のことで、かつては張子だったものが、いまや入梅なんかアクセサリーみたいな扱いである。

梅雨と女の暮らしの関係について。張子というのは和紙で重ねたもので濡れればしおしおしちゃう和な物体。それとアクセサリーという洋風の言葉の対比がユーモアがあって楽しい。

 

そのときその人の、衿の合わせ目あたり、実にきれいでした。着物がその人を守っているみたいでした。

まずいところをそっと庇ってやりたい心、いいところをより磨き上げて大切にしたい心、それがおしゃれの本心です。優しいのが本来のものだと思います。

 

このあたたかい文章、苦労を重ねた方だというだけあるなぁと思うのです。

たくさんの女性が出てきますが、先ほども書いたとおり、いろいろなひとの良い着こなしも悪い風情も目に浮かぶような書き方。そして色の表現の鮮やかなこと。よりいっそう自分のきものたちを見返して愛おしみが湧くし、自分の立ち居振る舞いも気をつけるべきだと身の引き締まる思いになりました。ちょいちょい読み返すとまた発見がありそうです。