着物book日記

おキモノ好きが着物関係の本を問わずがたり、というblog。

着物の本(59) パリジェンヌの着物はじめ

 

またちょっと前の本から。

 

パリジェンヌの着物はじめ

パリジェンヌの着物はじめ

マニグリエ真矢 ダイヤモンド社 2005/5

 

表紙は、クリーム色の縫い紋付きに、ウルトラマリンブルーの宝尽くしの帯のコーディネートのご本人。空色の紬のコーディネイトを考え中といった風情でしょうか。出版当時はおそらく30代後半だったはずです。フランス生まれのパリジェンヌが書く着物入門、という変わり種の本です。

もともとパリで日本文化を研究されていた方なので、当然着物については前から知っていたものの、実際に着ることになったのは、友人のイラストレーターから紹介された「なか志ま屋」さんでファースト着物をあつらえてから。なんと、全身のコーディネートを決めるのに5時間かかったという話が披露されています。そこで選ばれたグラデーションの紋お召しに、夢訪庵桝蔵順彦の引箔の手織り袋帯という取り合わせはとても現代的です。若いキャリアウーマンの外国人が日本のビジネスシーンで着るつもり、という、なんだかあんまりなさそうなシチュエーションのリクエストにぴったりはまっています。

そのあとは、いろいろと初心者向けの知識を盛り込みながら、着物との出会い、だんだんと自分好みのものを揃えていった過程、生地や仕立てのこだわりのポイント、ご主人とタッグを組んでの着付けの練習について、などが分かりやすい文章で書かれています。完全にゼロからのスタートだったわけで、用語などあまり専門の言葉を使わずに記述されるよう気が使われており、初心者の方が読むのにも適した内容になっています。

紹介されているご自身の着物は、表紙に出ている2枚に、ファースト着物と、鳳凰柄の訪問着だけ。帯も全部で10枚くらいとそれほど多くありません。いいもの、似合うものを少しだけ…最近「フランス人は10着しか服を持たない」という本が人気ですが、着物に対しても、それはやはり同じ感覚なのかもしれません。

フランスの人には月の帯にウサギの小物、という遊びごころが通じなかったとか、なか志ま屋さんで浴衣のデザインに挑戦した話など、なかなか興味深いです。

 

着物の本(58) おキモノ生活のすすめ

コミックエッセイは気軽に読めるのでつい手が伸びてしまいます。

 

おキモノ生活のすすめ 幸せ100倍はじめませんか?

おキモノ生活のすすめ 幸せ100倍はじめませんか?

エンターブレイン 2011/12 ほしわにこ

 

ほしわにこさん。いち利モールのブログに「大人の着物生活」というブログを掲載されている方です。1967年生まれでバブル絶頂期に着物にはまる、しかしながらお金がないため一旦遠ざかり、2000年ごろからおやすい着物生活を開始、といったご本人の体験が親しみやすく紹介されています。同じようなカジュアル志向のおきもの好きでは、近藤ようこさんときくちいまさんのちょうど間くらいの世代ということになるのかなと思います。

ネットオークションや骨董市を柔軟に使いこなし、着物を着るお友達もたくさん。きものを着るために茶道サークルに入ったり、新潟に反物をつくられる行程を見に行ったり、とてもアクティブです。ご本人が発見したり、お友達から教えて貰ったTipsがたくさん盛り込まれていて、一読すると色々な気づきがあると思います。

私はその中でも、「1994年の美しいキモノの表紙の松たか子の振袖がとてもステキで憧れだった」というコラムにひかれて、ちょっと探してみました。オークションページからの借り物ですが、こちらですね。

 

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確かにステキ。座った姿なので、特に膝上の柄がよくわかります。

今でも時々、振袖を着て振袖隊結成!されているそうで、確かに振袖って何か魔力がありますよね。いつか振袖だけを扱った本とか読んでみたいです。

 

 

着物の本(57) 昭和モダンキモノ 叙情画に学ぶ着こなし術

ご無沙汰しておりました。その間にも着々とキモノの本は読み進めておりましたので、どんどんご紹介しようと思います。

さてこちら。

昭和モダンキモノ 抒情画に学ぶ着こなし術 (らんぷの本)

昭和モダンキモノ 抒情画に学ぶ着こなし術 (らんぷの本)

2005年1月 河出書房新社 弥生美術館 中村圭子

 

高畠華宵竹久夢二といった画家の作品を紹介しながら、その中に現れる、今ではアンティークきものとして扱われる着物ファッションについて語った本です。大正末期から昭和初期、戦前の日本が、一番元気だった時代ですね。

表紙は昭和2年の高畑華宵のダンスパーティを描いた絵です。こんな絵が、カラーで100点ほど、モノクロでも結構な点数、紹介されています。どのページをとっても、色がやわらかできれい。モダンなモチーフの紹介、画家の紹介、絵の中の着こなしと進んでいきますが、添えられている文章も端正ながらたくさんの情報に溢れています。

途中から弥生美術館館長の古賀美枝子さんの絵へのコメントが入るのですが、その一つ一つも効いています。「でも実際はこんなに着込んだら暑いんじゃないかしら」とか、「紗の着物に袴なんて、現実には着ませんでしたよ」など、どうやら絵の中には色々とファンタジーも含まれているようなので、全部真似しちゃいけませんね。 

 

当時の雑誌のファッションページをそのまま引き写したページも面白かったです。たとえば夏帯八題、というページから紹介してみましょう。8つの帯がすきまなく並べて写真で紹介され、右上にキャプションがついています。

(1)中央は金色地の繻子で、左右は白地の紗という、変わり生地。サビ緑、淡古代、洗朱、藍クリーム色などで模様を出した上品なもの。26、7歳向き。19円30銭。…(途中略)…(7)黒と銀の大胆な色彩の地に、臙脂の朝顔を出した風通で、モダンな20歳前後向き。47円50銭。…」

って、ずいぶんと対象年齢を絞っているのにびっくりしました。今の着物雑誌でも、年代はわりと指定して紹介しているケースが普通ですが、昔はもっとすごいのですね。二十歳前後だけ刻んでいるわけではなく、30代や40代でも同じです。どういうわけなんでしょうね。 

まったく読み飽きるところがない良い本でした。

着物の本(56) 着物の悦び

こんにちは。

本日はこちら。

 

着物の悦び―きもの七転び八起き (新潮文庫)

着物の悦び―きもの七転び八起き (新潮文庫)

1996/11/29 林 真理子

 

こちらは実は私が生まれて初めて読んだ着物の本だったと思います。単行本が出たのが1992年12月。今から20年以上前です。

31歳で、弟の結婚式のために作った色留袖をきっかけにきものにハマった著者の、銀座で気になる呉服屋を見つけ、思い切って入って以来の馴染みになったり、友人と和の習い事を楽しんだり、コーディネートに悩んだり、展示会に出かけては着物を買ったり、京都にお出かけしたり…というきものライフが綴られます。って、あれ、このざっくりした内容って、以前ご紹介した平松昭子の着物事件簿とものすごく似てますね。趣味が高級な着物寄りなのも、舞を習っているのも同じです。平松昭子の本から、時代を10年早くし、着物を買いまくる量をヒトケタあげ、TPOやマナーなどのいろいろなきもの知識をぎっしり文章で盛り込むとこちらの本になる感じでしょうか。

きもののマナーの情報としては、もともと婦人画報系などの実用書はあったでしょうが、こうして気軽に読める本はそれまで無かったのではないかと思います。インターネットの無い時代の初心者に、とてもありがたい指南書になったのではないかな、と思います。とはいえ、誰もがこんなお金をかけてはいられないので、こういうやり方でしか、きものに詳しくなる道がない、と思ったら大変なことになってしまいますね。私も当時読んだときは、きもの=たいそうお金がかかるもの、という認識がすっかり刷り込まれてしまいました。そうでない着物もある、と知ったのは大分後のことです。

文庫版のあとがきとして、「とうとう手持ちの着物は120枚を超えた」とあります。ということは約10年で120枚、月イチペースです!当たり前ですが、ネットショッピングもない時代ですし、リサイクルを買うような御性分の方でもないでしょうから、貰い物以外はすべて誂えかとおもいますが、どのくらいお金かかったんでしょうねぇ。そんな素晴らしい着物たちは口絵カラーに何枚か紹介されています。文中にも出てくるお気に入りの「志ま亀(しまかめ)」のものが中心です。表紙の和の模様も、そうして紹介された訪問着の中の一枚をアップにしたもの。これこそ、きもの愛。ですね。

エッセイの一番最後に、着物が好きになったらおすすめ、の着物の描写が細かい作家として、有吉佐和子宮尾登美子谷崎潤一郎渡辺淳一をあげられています。有吉佐和子は「真砂屋お峰」は読みましたが、「乱舞」「連舞」「墨」はまだなので読んでみようかな?

着物の本(55) きもの 髪型&メイク(特選実用ブックス きもの)

こんにちは〜

~お祝い・行事・特別な日のための~ きもの 髪型&メイク (特選実用ブックス)

 

~お祝い・行事・特別な日のための~ きもの 髪型&メイク (特選実用ブックス)

世界文化社 2009/9

 

世界文化社なので、「きものSalon」系列の本になります。非常によく似た本として

もありますが、こちらから5年経って出た本になり、一応、現時点では最新扱いでしょうか。たまにはリニューアルしないと、古くなっちゃいますものね。もっとさかのぼってみると、たとえば1999年度には、こんな本。

きものの日の髪型とメイク (’99) (家庭画報特選)

きものの日の髪型とメイク (’99) (家庭画報特選)

 

 表紙のパンクな髪型の女の子は、ともさかりえでしょうか?以前は美容院に行けば必ずこういう本の1冊や2冊置いてあったと思うのですが、すっかり見かけないのは、毎年出なくなったからですね、多分。

さて、元の本に戻ります。

まずはメイクの指南から。「フォーマル」「振袖」「よそいき」「カジュアル」に分けて資生堂のヘアメイクアーティストが紹介をしています。それほど目新しいことはなく、丁寧に、明るめに、きっちりと。手や首筋も塗ったほうがいいとのことですが、そうすると着物への汚れが気になりますね…

それが終わると、残りページはほぼ、ヘアスタイルのカタログです。メインはもちろん大人向け、結婚式でも留袖、色留袖、訪問着、振袖にわけてのスタイル提案。他、成人式、卒業式、茶会、喪服系、食事会やショッピング、夏祭り、コンサートなどTPOにわけていろいろな髪型が紹介されます。このうち、フォーマル系は基本美容院用、カジュアル系は「自分で結う」を前提に簡単な手順も紹介がなされています。振袖用を含めて全体的に非常に手堅く、先ほどご紹介した、ともさかりえ的な奇抜なヘアスタイルレベルのものは一切ないので、安心して見られます。

それが終わると、裏表紙でもウリにしている、七五三の髪型紹介。「お母さんが結う」を前提にしており、手順がかなり詳細に紹介されています。3分でできる、とうたわれているふわふわ二つ結びもありますが、それでもカーラーは必須なようで、なかなか高度のような。

そのあとはヘアアクセサリのカタログ、自分で結う時のポイント紹介、ヘアピースの使い方、美容院で着付け&メイクをしてもらう時に気をつけるポイント、と、かゆいところに手が届く記事が揃っています。特にヘアアクセサリは洋装とも共通で使えそうなものが大量に紹介されていていい感じ!と思ったら、このセクションは文もスタイリングも秋月洋子さん、やっぱり〜。(←結構ファンになりつつある)

巻頭の水谷妃里(振袖)、高橋惠子(黒留袖)、梓真悠子(訪問着)と女優で固めたページをはじめ、全体的にモデルさんが美女ぞろいなのも見ていて嬉しいです。さすがは「きものSalon」、だと思いました。

着物の本(54) 大正ロマン着物女子服装帖

今日はこちら。

大正ロマン着物女子服装帖―ポニア式コーディネート術

大正ロマン着物女子服装帖―ポニア式コーディネート術

大野らふ

2008/9 河出書房新社

 

あら、画像を貼ってみて初めて気がつきました。セルのチェックの着物は大きな矢羽根模様ですね。

大野らふさんは根津にある「ポニアポン」というアンティーク着物店の店主。「ポニアポン」ってどういう意味?なのだろう?と調べてみたら、「ニッポニアニッポン」=トキから名付けられたそうです。絶滅寸前の日本の鳥…それってアンティーク着物と重なる部分もあるのかもしれません。

そもそも、アンティーク着物というモノが、残っているかどうか以前に、作られるようになったのは、明治後半に絹が大量に機械生産出来るようになった後、第二次世界大戦が始まるくらいまでのせいぜい50年間くらいではないでしょうか。こちらから絹織物の原料となる生糸の生産量グラフをお借りしてきました。

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十分に国内向きの生糸の余裕が出てくるのは、1915年~1920年くらいからでしょうか。1935年=昭和10年に絹の生産量はピークを迎え,その時は1万トンちょいは自国内で消費するしていたことになります。このピーク前後の10年が、日本の絹ファッションは間違いなく黄金期であり、xs色んな冒険が出来た時代なのではないかと思います。1935年の日本の人口は7000万くらいでしたので、1000kgを7000人で消費=6-7人で1反分くらいのメド?ちょっと余裕のある家庭の婦女子なら、1年に一度くらいは絹の着物を誂えられたってところでしょうか。

この本は、主にその頃に作られたアンティーク着物の魅力を紹介したものとなっています。33のコーディネートの中には、もちろんお召しや銘仙、ちりめんの絹ものだけでなく、表紙のセルをはじめとしたモスリン、木綿や浴衣ものも紹介しています。帯も丸帯から半幅まで、いろいろ。戦後や現代のものとも組み合わせての「リアルスタイル」という名で、完全なアンティークは苦手…という向けの提案もされています。

完全に大正時代のものだけにこだわる、というよりも、アンティーク好きの大野さんの目で厳選された、特に素敵な着物や帯たちを現代の人たちにも魅力的に見せるように配慮されている、という印象です。

同じ着物や帯でも、グラビアでモデルが着こなしていたり、柄のアップの解説があったりと何回か別のページに登場しますが、それぞれどのページに行けば同じものが別の角度で見られるのかきっちり紹介してあるのに愛を感じます。

他にもアンティーク着物を着るコツ、大正時代のファッションの紹介などもあり、これ1冊がそのままアンティーク着物入門になる内容です。

Rumirockさんや、以前にご紹介した通崎睦美さんのことなども紹介されています。いろいろ、つながっているのですね。 

 

着物の本(53) YUCARI vol.18 着物を着よう!(マガジンハウスムック)

さて今日はもう一冊、出たばかりのこちら。

YUCARI vol.18 着物を着よう! (マガジンハウスムック)

YUCARI vol.18 着物を着よう! (マガジンハウスムック)

2015/1/20

 

マガジンハウスの名が冠されていますが、発行は「シダックス総合研究所出版」。

広告ページもシダックスのみなので、SHIDAXのページを確認したところ、

 

シダックスグループが特別協力するカルチャー誌『“日本の大切なモノコトヒト”「YUCARI」は、毎号ひとつのテーマにしぼり、日本の魅力をお伝えしています。尚、シダックスグループが運営する施設をご利用のお客様には、通常の市販誌を抜粋した特別編集版を、無償で配布しております。(途中だいぶ略)」

 

とのことでした。なるほど、…はじめにぱらぱらっと見た時に飛行機に置いてある機内誌みたいだな、と思いましたが、まさにその通りですね。はじめの60ページ程度がこの着物の特集、後半は橋本愛のインタビューやレシピ、お店紹介など小記事が40ページくらい、となっています。

さて、着物の特集ですが…

まず、東京都国立博物館にある古い小袖の紹介。それとともに「大彦の小袖コレクション」展の開催日程がこっそり記されてたりします。

次に初心者向けの着物入門、ということで男向けの着物紹介も合わせて6ページ。

その後はいきなり米沢織、秩父太織、京都濡れ描き友禅という、「職人を訪ねて」的なページ、全国の染織を細かく紹介したページ、なんと古墳時代から始まる着物の歴史、と、そのまま教科書にでも載ってそうなページが続きます。

お勉強になるページが続くけど、ちょっと眠くなっちゃう…というところで、具体的な商品を使ってのスタイル提案となって目が覚めました。冒頭に一枚出ていた若い男女2人が再び登場し、お茶室でお茶のまねごとをしていたり、カジュアル着で散歩している、というイメージのわきやすい写真が登場します。このカップルは愛らしくて素敵です。町で見かける男の人のカジュアル着物は、和の道の人か、そうとう傾いた人しかいないイメージですが、こういう記事をデート雑誌とかにもっと載せて、みんなが「素敵!」って思ってくれたらいいのになぁ〜。

それ以降の部分については、なんだか色々細かく親切に紹介されてはいるのですが「茶室で客側もふくさを挟みっぱなしはおかしい」から始まり、「着物と帯を重ねて置いたコーデ紹介がシワっぽくて素敵に見えない」、「それに続く小物紹介も同じ店から選ばれ過ぎていて埋め草にもほどがある」「菱屋カレンブロッソのカフェ草履を草履型下駄として紹介してるのって何だか変(しかも別ページでは草履扱い)」などなど、個人的には詰めの甘さが気になりました。これ、予算少ないとそうなるって見本でしょうか。スタイリングやテキストは湊屋一子さんという方だそうです。